ミュージックアニメーションコンペティションのテーマ、映画祭の楽しみ方
―ミュージックアニメーションコンペティション (→作品一覧はこちら)
- 小野
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最後は「ミュージックアニメーションコンペティション」ですね。ミュージックビデオに限定したコンペティションかというと、そうではなく、音楽を含め、サウンドに特色がある作品を集めたコンペティションです。音楽ライブ用の音響機材を使用して上映したり、国際審査員とは異なる特別審査員をお呼びしたりと、本映画祭のコンペティションの中でもひときわユニークなプログラムかもしれません。
- 田中
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Raman Djafari監督の『Elton John, Dua Lipa – Cold Heart (PNAU Remix)』を上映できるのをうれしく思っています。以前から個人的に注目していたアーティストでしたので。
Djafari監督は、もともとは平面のアニメーションを制作していたのですが、近年はストップモーション風の3DCGアニメーションをつくっています。ストップモーション風とは言っても、パペットでは再現できない、3DCGならではの映像になっています。さらに本作では、3DCGと2D作画の融合に取り組んでいます。
Djafari監督の作品はどれも色彩がとても美しく、本作の色彩表現もたいへんすばらしいので、ぜひ注目してほしいですね。
- 倉重
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Caibei Cai監督の『Sliver Cave』は、「インターナショナルコンペティション」のほうにもノミネートされています。
かなり実験的な作風で——アルミ板にフロッタージュしているのかな?——具体的な技法はわからないのですが、金属質の板に凹凸を付けることで絵を描いて、それをコマ撮りするっていう、気の遠くなるような方法でつくられていて、そのビジュアルの新鮮さにまずおどろきましたよね。
「Cave」が洞窟で、「Sliver」はたぶんフィルムの1コマという解釈でいいと思うんですが、フレームが積層していくことによって世界が創造されるというアニメーションの原理についての自己言及的な表現を意図しているのかなと。同時に、アニメーションの起源は旧石器時代の洞窟壁画にまでさかのぼれるという説もありますから、アニメーションの歴史についての自己言及的な表現という解釈もできるかもしれません。また、「洞窟」ということで奇妙な生物や獣人といった幻想的なイメージが登場したりと、複数のイメージが多層的に重なり合っている。そして、そうした複数のイメージのうちのひとつに「音楽」もあります。アニメーションにおける音楽というのは、通常、映像に付随する、映像を補助する役割である場合がほとんどですが、本作においては、映像とサウンドが一体となって、全体でリズムを刻んでいる。映像全体である種「楽譜」のようになっているんです。
「ミュージックアニメーションコンペティション」の一環として本作を「聴く」ことで、「インターナショナルコンペティション」で見るのとはまた違った魅力を感じとっていただけるのではないかと思います。
―映画祭の楽しみ方
- 小野
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以上、コンペティション各部門を紹介してきました。みなさま、ありがとうございました。最後に、映画祭の楽しみ方についてひと言ずつちょうだいできればと思います。まずは私から。
1プログラムあたりのチケット価格をかなり安く設定しているので、お目当てのプログラム以外にも、いろいろなプログラムを渡り歩いてみてほしいです。作品との予期せぬ出会いこそ、映画祭の醍醐味。そういう出会いによって、大げさでなく、人生が変わってしまうこともあります。
また、映画祭期間中は上映作家もたくさん来場くださいますので、ひと言でもいいので、作品を見た感想を直接伝えていただければと思います。
- 倉重
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最初にもお話ししたように、現在はアニメーションの範囲を定義するのは困難と言われています。ですが、本映画祭のプログラムをいろいろと見ていただくことで、その輪郭がなんとなく把握できるんじゃないかと思います。
容易には咀嚼できない、戸惑うような作品にぶつかることもあると思いますが、むしろそういう作品と出会うために来場するという心もちのほうがいいのかもしれません(笑)。簡単には理解できない作品こそ、ゆっくりと時間をかけて噛みしめることで表現——「表現」っていうのは、なにも作品制作だけを指すのではなくて、私たちは日々生きている中でさまざまな「表現」をしているのだと思います——の糧になるはずです。
- ニヘイ
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映画祭の良いところってやっぱり、いろいろな国のさまざまなバックグラウンドの人がつくっている作品が一堂に会するところだと思っています。今回のインコンペ作品を見渡してみても、エンターテインメント性の高い作品から、社会派な作品、観客に負荷をかける作品まで、ほんとうに多様な作品がラインアップしている。趣味に合うかどうかは別にしても、心動かされないプログラムはないんじゃないかと思います。たくさんのプログラムを見ていただいて、「世界にはこんな作品をつくっている人間がいるんだ」というのを知ってもらえるとうれしいです。
- 岩崎
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ニヘイさんもおっしゃっていたとおり、映画祭ってさまざまなバックグラウンドをもった作品が集まるので、それを別の角度から言い換えると、作品の数だけ異なる世界の見方があるってことだと思うんです。
理解するために繊細さがすごく求められる作品もあるし、僕自身、すべての作品を完全に理解しているとは言えないかもしれない。だからこそ、見た人同士で積極的に感想をシェアしてもらって、自分とは異なる見方に触れることで、世界が広がると思います。僕も会場をうろうらしているので、遠慮せずに作品について率直な感想など聞かせてもらえるとうれしいです。
- 田中
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映画祭全体を通じてアニメーションの「いま」を浮かび上がらせるようなプログラムの組み方をしているので、コンペティション/招待作品を問わず、ぜひ複数プログラムをはしごしてほしいです。
こちらとしては、どの作品も心の底からすばらしいと思って選んでいますから、すべて気に入ってもらえるとうれしいですが、現実的に考えてそんなことはありえないのもわかっています。すべてを気に入ってもらえなくてもいい。ただ、アニメーションの「いま」を感じとってもらうことで、みなさんが好きな作品は世界のアニメーションの中でどういう位置にあるのか、みなさんは作品のどんな部分に魅力を感じているのか、そうした「好きの輪郭」がはっきりしてくるはずです。