ファミリー、日本コンペティション、学生コンペティション
―インターナショナルコンペティション:ファミリー (→作品一覧はこちら)
- 小野
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誤解されがちですが、「インターナショナルコンペティション:ファミリー」は、単に子ども向けのプログラムというわけではなくて、大人でないと楽しめないであろう表現を避ける配慮がなされたプログラムです。なので、どの作品も大人の鑑賞にもじゅうにぶんに耐えうる強度を備えていますし、あくまでも「インターナショナルコンペティション」の一環なので、国際審査員による審査対象にもなります。「インターナショナルコンペティション:ファミリー」から短編部門グランプリが選ばれる可能性もじゅうぶんに考えられます。
- 田中
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はなぶし監督の『暗く黒く』は、「ずっと真夜中でいいのに。」による同名楽曲のミュージックビデオです。
選考の途中段階では「ドメスティックな作風なので日本コンペティションのほうがふさわしいのではないか」という意見も出たのですが、シンセウェイヴ/ヴェイパーウェイヴ風のビジュアルや和洋折衷的なキャラクターデザインなど、さまざまなカルチャーを貪欲に吸収しているかんじがすごく同時代的だと思いましたし、伝統的なアニメーション映画祭の傾向からはやや外れる作風であっても、開催国のユニークなアニメーションを世界のアニメーションの動向に接続することもまたアニメーション映画祭のひとつのミッションと考えておりますので、最終的に、国際審査員による審査対象となる「インターナショナルコンペティション:ファミリー」で上映できることになってよかったです。
Andreas Hykade監督の『戦争の解決策』も、「インターナショナルコンペティション:ファミリー」で上映するのがふさわしいかどうか若干議論になりましたね。
- 小野
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そうでしたね。『戦争の解決策』は、タイトルどおり戦争とその解決方法についての寓話で、風刺の効いた作品です。若干、暴力的な描写も含まれているため、ファミリー向けにふさわしいかどうか議論になりましたが、最終的には、平和について改めて考えるためのきっかけにもなればと考え、「インターナショナルコンペティション:ファミリー」で上映することになりました。
- 岩崎
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本作はロシアによるウクライナへの軍事侵攻に着想を得て制作されたと推測されますが、アニメーションをつくる側の視点から言うと、アニメーション制作はすごく時間がかかるため、同時代的なトピックをリアルタイムに反映するのは本来むずかしい。
本作の監督は、ドイツを代表するアニメーション作家のAndreas Hykade監督です。短編アニメーションの世界では知る人ぞ知るベテラン作家ですが、アニメーションが本来苦手としている、社会情勢の変化にすばやく反応してクオリティの高い作品に仕上げるということをやりとげていて、キャリアの厚みを感じさせる仕事ぶりだと思いました。
- ニヘイ
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個人的には『かぶ』もすごく好きな作品です。
切り絵やパペットを素材にしたストップモーションなんですが、刺繍でつくられたカブとか、ひとつひとつの造形がすごく凝っていて、魅力的なんです。なんと言ってもネズミとモグラがすごくかわいらしい! そのかわいらしさというのも、わざとらしく誇張したかわいらしさではなくて、動物らしい、自然体なかわいらしさなんですよね。基本的に眉毛がないデザインなので、まばたきとか、ちょっとした表情の変化で表現するしかないのですが、そうした制限がある中でもちゃんと魅力的に見せる演出力がすばらしいなと。構図や「間」のつくり方も巧くて、作者の意図が全体にいきとどいていることが画面から伝わってくる。それが、作品の魅力や説得力につながっているんだろうなと。
―日本コンペティション (→作品一覧はこちら)
- 小野
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次は「日本コンペティション」です。「日本コンペティション」には、日本で開催される映画祭の役割として、すでに海外の映画祭で高く評価されているような作家だけでなく、国内のフレッシュな才能を紹介していきたいという想いを込めています。本年は感染症対策の観点から、海外からのゲストを積極的にお呼びすることは残念ながら叶わなかったのですが、例年、海外ゲストからもたいへん人気のあるプログラムです。過去には「日本コンペティション」で上映されたことをきっかけに海外の映画祭で紹介された作品もあります。
- 岩崎
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満場一致というかんじだったのは西原美彩監督の『鬼、布と塩』。
これは僕自身も大学で教えているので自戒を込めて言うのですが、日本の若手アニメーション作家って、自分の狭い関心の範囲内で完結してしまいがちな傾向がどうしてもあって、正直、もっと時間をかけてリサーチをしたうえで制作にのぞんでもいいんじゃないかと思うことがあるんです。
その点、本作は神楽を題材にしていて、作品を見ただけでも、しっかりリサーチを重ねていることがわかる。鬼、布、塩といった作品のキーとなるモチーフの扱い方などに、リサーチの成果がよく現れていると思いますし、それが作品の説得力につながっている。こういう若手が国内から出てきたのはすごくうれしいですし、僕自身、刺激を受けました。
- 小野
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反対に鈴木竜也監督の『無法の愛』は議論が紛糾しましたね。
鈴木監督は、もともとは実写映画をつくられていて、それゆえか映画的な見せ方がすごく巧みで、一方でアニメーションにしかできない「飛躍」も心得ている。前作も「日本コンペティション」で上映させていただいたのですが、本作はアニメーションとしてより洗練された印象を受けました。
物語の後半に国内で起こった無差別刺傷事件を想起させる場面があり、その描き方にかんして選考委員内でも意見が分かれたのですが、世界のアニメーション映画祭の傾向からは外れるけれども光る部分があり、最終的には「日本コンペティション」で上映したく、推させていただきました。
―学生コンペティション (→学生コンペティション 1作品一覧はこちら)、(→学生コンペティション 2作品一覧はこちら)
- 小野
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続いては「学生コンペティション」です。「学生コンペティション」は2018年から設置された部門になります。学生作品と聞くと、プロフェッショナルの作品よりも劣るという先入観を持ってしまう方もいるかもしれませんが、そうではありません。「インターナショナルコンペティション」に入りきらないという理由で紹介を断念するにはあまりにも惜しい秀作ぞろいです。その表現の豊かさとフレッシュさに注目していただきたいです。
- 岩崎
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学生作品とはにわかには信じがたいほどクオリティの高い作品がそろっていて、「インターナショナルコンペティション」と比較しても遜色ないラインアップになっていると思います。その中でも選考委員一同おどろいたのが、Gabrielle Selent監督、Adam Sillard監督、Chloé Farr監督による共作『Goodbye Jérôme!』です。
天国を舞台に、主人公が先立った恋人を探すというストーリーなのですが、物語はもちろん、ジョージ・ダニング監督の『イエロー・サブマリン』を連想させるようなビジュアルも秀逸です。個人的には、途中に登場するホットドッグが、かわいらしくてお気に入りです。ぬいぐるみでほしいなと(笑)。
- ニヘイ
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Zhen Li監督の『Fur』も深く印象に残っています。
初見では、ビジュアルの異様さ、メタモルフォーゼの異様さに圧倒されてしまい、正直、物語はちゃんとは理解できなかったんですが、それでもすごく魅了されて、見返してみて「あっ、恋心についての物語だったのか」と腑に落ちました。そうすると、物語のおもしろさ、構成の巧みさもわかってきて。
鉛筆や木炭を使っているのかな? ガサガサとした質感も主人公の気持ちの揺らぎを表現するために貢献していて、見るたびに新しい発見がある作品です。
- 小野
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Jasmjin Kooijiman監督の『Dance My Doll』は、スウェーデンの移民問題を描いたストップモーションアニメーションで、「学生コンペティション」の中でもっとも社会派な作品です。
移民たちの会話やしぐさ、小物のひとつひとつをとっても丹念なリサーチの痕跡が見てとれて、物語に説得力と厚みを与えています。監督自身もスウェーデンに移住してきたそうで、その経験を通じて感じたことも反映されているのかもしれません。
編集もすごく映画的で、どっしりとした、重厚なアニメーション映画です。
④は後日公開