新千歳空港国際アニメーション映画祭は、第9回目となる今回から新体制「TEAM NEWCHITOSE」を組織しました。そこで、映画祭チーフディレクターの小野朋子いわく本映画祭の「心臓」であるというコンペティション短編部門について、初回から短編部門選考委員を継続している小野と倉重哲二に加え、今回から新たに参加した岩崎宏俊・ニヘイサリナ・田中大裕を交えた座談会をお届けします。
座談会メンバー
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アニメーション作家
倉重 哲二
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新千歳空港国際
アニメーション映画祭
チーフディレクター小野 朋子
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アニメーション作家、
イラストレーターニヘイサリナ
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アーティスト
岩崎 宏俊
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アニメーション研究者、
tampen.jp編集長田中 大裕
本座談会の意図と、選考委員各自が選考に際して意識したことについて
―本座談会を通して伝えたいこと
- 小野
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コンペティション短編部門は、本映画祭の「心臓」というか、いわば基礎構造なので、映画祭のアティチュードがもっとも色濃く現れる部分だと考えています。どのような意図をもって選考にのぞんでいるのか、選考基準を言語化する機会を持ちたいと以前から思っていました。なので、選考委員として新たに3人のメンバーを迎えたこの機会に、新メンバーの紹介をかねて、選考の意図を説明する場を設けたという経緯です。この座談会を通じて、応募くださった制作者のみなさまに選考の意図をお伝えしたいというのはもちろん、観客のみなさまにコンペティションに興味を持っていただくきっかけになればと願っています。
―選考にあたって選考委員各自が意識したこと
- 小野
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近年、本映画祭を設立した当初からは予想もつかないほど、アニメーションの在り方は多様化しています。そうした状況に触発されて、私たちもアニメーションの範囲を再定義するような作品こそを積極的に紹介したいという想いが年々強くなっています。
なので、アニメーションという映像言語を駆使して「どのように物語っているか」という部分を注意深く見極めようと意識していました。表面的なストーリーは、作品を構成するごく一部の要素にすぎなく、たとえありふれた題材であっても、どのように語っているのかの「どのように」の部分が重要と考えて臨みました。
もうひとつ、革新的な表現に反応するために、直感的に理解できる/できないではなく、ある種の「強度」を見逃さないように心がけていました。
- 倉重
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小野さんのお話にもあったように、年々、アニメーションの範囲が拡張しているなかで、その先端にある表現をとらえることを意識しながら例年選考にのぞんでいます。
もうひとつずっと意識してきたのは、作者はきっと専門的な映像教育を受けていないんじゃないかなという、伝統的なアニメーションの文脈からは明らかに外れるようなアウトサイダーな作品の中からも光るものをピックアップしたいということです。
具体的に作品のどういった部分に注目したかというと、物語やテーマよりも、映像の質感そのものですね。ビジュアルのおもしろさもそうだし、時間軸の構成の仕方や映像のリズム感を重視しました。
- 岩崎
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まずは、応募してくれたすべての作家にありがとうございますと言いたいです。自分も普段は作家として活動しているので、ノミネートされたり/されなかったりというのが、作家にとってどういう重みを持つのか、よくわかっているつもりです。なので、シノプシスとかステートメントをしっかりと読み込んで、作品によっては作者のホームページにまであたって、作家がどういう文脈のもとに作品と向き合っているのか、安易に自分の関心に引き寄せることなく、できるかぎり正確に把握したうえで選考するよう心がけました。
暴力描写や性描写、あるいは先行作品と類似した表現が見て取れる場合は、とくに慎重にその意図を検討しました。
実験的な作品の新規性について判断する際も同様です。誰もまだ使用していない手法を使っているからすばらしいという安易な判断はしないように心がけ、選択された手法や表現が内容にどれくらい貢献しているのか/いないのかという点をよく吟味しました。
- ニヘイ
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私も倉重さん・岩崎さんと同じく作家なので、映画祭ディレクターや研究者とは異なる視点のもと選考にのぞんでいたんじゃないかと思います。技法の新しさや、反対にアニメーションの歴史に敬意を払っているかどうかという部分ではなく、シンプルに、観客の心を動かすような物語を描けているかどうか、作品を通じてハッとさせられる視点が提示されているかどうか、という部分を大切にしました。
- 田中
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私がもっとも意識したのは、自分の審美眼や直感をいっさい信用しないということですね(笑)。というのも、他の選考委員の方々と違い、私はアーティストではないし、選考委員の経験もほとんどないからです。
では何を基準に選んでいったかというと、一定以上の完成度を満たしているのは大前提としたうえで、アニメーションの「いま」を凝縮したような、アニメーションの全体像の縮図を描くような意識で作品をピックアップしていきました。私はCGの歴史研究もしているのですが、50年前の展覧会のカタログを調べて「当時はこういう作品がつくられていたのか」と知ることで研究の足がかりになることもめずらしくないんですね。つまり、映画祭のノミネート作品を選ぶというのは、けっして大袈裟ではなく、何十年も先の未来に作品を残すという側面があるわけです。現在のアニメーションの生態系を抽出して未来へ届ける。その責任を自覚したうえで選考にのぞみました。なので、単に完成度が高いというだけでは不十分で、アニメーションの現在をなんらかのかたちで象徴するような作品かどうかという点を重点的に検討しました。
もうひとつ意識したのは、アニメーションの多様性を示すと同時に、個別の作品を越えて共有可能な足場を観客に提示するということ。これはアニメーションの全体像の縮図を描くという話にも通じるのですが、観客各々が現在のアニメーションのエコマップみたいなものを思い浮かべてもらえるような、そういうラインアップをめざしました。